ゲストハウスの物件探しの前に立ちはだかる3つの壁とは?

ゲストハウスの物件探しの前に立ちはだかる3つの壁

「ゲストハウスを開業したい!」

そう思った方がまず何をするかといえば、「どこで開業するか(エリア選定)?」ですね、そしてその次に考えるのが、「物件をどうするか?」です。

ゲストハウス開業を考えてる方の中には、親、知人などから遊休資産となっている物件を譲ってもらったり、紹介されたり、賃貸させてもらったりする方もいるでしょうが、一から物件を探す方が大半でしょう。

でも、その物件探しの前に知っておくべき3つの壁について解説します。

用途地域で制限される - その① –

ゲストハウスは、旅館業法に則った宿泊施設です。その旅館業法では、営業できるエリアを用途地域上で制限しています

ん? 「用途地域」とはなんでしょう? 用途地域とは、「計画的な市街地を形成するために、用途に応じて12地域に分けられたエリア」のことです。
その「用途地域」の一覧は以下のとおりで、この表で旅館業を営むことができない用途地域があることをご理解いただければと思います。

対象となる物件がどの用途地域になるのかは、各自治体の都市計画課で都市計画図を見れば確認できます。(役所に出向かなくても電話して住所を言えば用途地域を教えてくれるでしょう。)また、こちらの国土交通省のページで調べることもできます。

旅館営業の可否 用途地域名 内容
× 第一種低層住居専用地域 低層住宅のための地域です。小規模なお店や事務所をかねた住宅や、小中学校などが建てられます。
× 第二種低層住居専用地域 主に低層住宅のための地域です。小中学校などのほか、150㎡までの一定のお店などが建てられます。
× 第一種中高層住居専用地域 中高層住宅のための地域です。病院、大学、500㎡までの一定のお店などが建てられます。
× 第二種中高層住居専用地域 主に中高層住宅のための地域です。病院、大学などのほか、1,500㎡までの一定のお店や事務所など必要な利便施設が建てられます。
第一種住居地域 住居の環境を守るための地域です。3,000㎡までの店舗、事務所、ホテルなどは建てられます。
第二種住居地域 主に住居の環境を守るための地域です。店舗、事務所、ホテル、カラオケボックスなどは建てられます。
準住居地域 道路の沿道において、自動車関連施設などの立地と、これと調和した住居の環境を保護するための地域です。
近隣商業地域 まわりの住民が日用品の買物などをするための地域です。住宅や店舗のほかに小規模の工場も建てられます。
商業地域 銀行、映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域です。住宅や小規模の工場も建てられます。
準工業地域 主に軽工業の工場やサービス施設等が立地する地域です。危険性、環境悪化が大きい工場のほかは、ほとんど建てられます。
× 工業地域 どんな工場でも建てられる地域です。住宅やお店は建てられますが、学校、病院、ホテルなどは建てられません。
× 工業専用地域 工場のための地域です。どんな工場でも建てられますが、住宅、お店、学校、病院、ホテルなどは建てられません。

 

照会?が必要となる場合がある - その② –

まず、旅館業法第三条3項には以下の通り記載されています。以下抜粋

旅館業法第三条3項

3 第一項の許可の申請に係る施設の設置場所が、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。以下同じ。)の周囲おおむね百メートルの区域内にある場合において、その設置によつて当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるときも、前項と同様とする。一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校(大学を除くものとし、次項において「第一条学校」という。)及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園(以下この条において「幼保連携型認定こども園」という。)二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除くものとし、以下単に「児童福祉施設」という。)三 社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)第二条に規定する社会教育に関する施設その他の施設で、前二号に掲げる施設に類するものとして都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下同じ。)の条例で定めるもの4 都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長)は、前項各号に掲げる施設の敷地の周囲おおむね百メートルの区域内の施設につき第一項の許可を与える場合には、あらかじめ、その施設の設置によつて前項各号に掲げる施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがないかどうかについて、学校(第一条学校及び幼保連携型認定こども園をいう。以下この項において同じ。)については、当該学校が大学附置の国立学校(国(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人を含む。以下この項において同じ。)が設置する学校をいう。)又は地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人(以下この項において「公立大学法人」という。)が設置する学校であるときは当該大学の学長、高等専門学校であるときは当該高等専門学校の校長、高等専門学校以外の公立学校であるときは当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会(幼保連携型認定こども園であるときは、地方公共団体の長)、高等専門学校及び幼保連携型認定こども園以外の私立学校であるときは学校教育法に定めるその所管庁、国及び地方公共団体(公立大学法人を含む。)以外の者が設置する幼保連携型認定こども園であるときは都道府県知事(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下この項において「指定都市」という。)及び同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下この項において「中核市」という。)においては、当該指定都市又は中核市の長)の意見を、児童福祉施設については、児童福祉法第四十六条に規定する行政庁の意見を、前項第三号の規定により都道府県の条例で定める施設については、当該条例で定める者の意見を求めなければならない。5 第二項又は第三項の規定により、第一項の許可を与えない場合には、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を申請者に通知しなければならない。6 第一項の許可には、公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な条件を附することができる。

前項はこちら

2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき、又は申請者が次の各号のいずれかに該当するときは、同項の許可を与えないことができる。

以下に記載の①「次に掲げる施設」に該当する施設と当該宿泊施設との距離が②おおむね百メートル 以内であり、③清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるとき都道府県知事は許可を与えないことができる

ということです。3つの要件が揃って初めて、許可を与えない場合があるというです。

 ①保護される施設とは?

この規定で保護しようとする清純な環境であるべき施設とは次の通りです。ポイントは、各自治体によって対象施設が異なるという点です。必ず保健所に尋ねましょう。

・学校教育法に規定する学校(大学を除く)
高校 / 中等教育学校 / 特別支援学校 / 高等専門学校

・児童福祉法上の施設
助産施設 / 乳児院 / 母子生活支援施設 / 保育所 / 幼児連携型認定こども園 / 児童厚生施設 / 児童養護施設 / 障害児入所施設 / 児童発達支援センター / 情緒障害児短期治療施設 / 児童自立支援施設 / 児童家庭支援センター

・各自治体で定める施設 例
図書館 / 博物館 / 公民館 / 公園 / スポーツ施設 など

 ②おおむね百メートルの範囲 とは?

法律用語上の「おおむね」というのは曖昧な日本語ですが、具体的な施行細則、条例には「10%増し」でとらえるようで、110メートルと解釈されるようです。(これも自治体によって解釈異なるかもしれませんのでこれも要確認です。)

具体的にどこからどこまでの距離かというと、宿泊施設の壁から学校などの施設の壁までの距離を地図上の直線距離で計測します(私の経験上です)。微妙な場合は、保健所にきいてみるとよいでしょう。

 ③「清純な施設環境が著しく害されるおそれ」とは

とても曖昧ですね。簡潔にいえば、『小学校の近くにラブホテルがあるというのは、清純な子供たちの教育環境としてよろしくないでしょ?』ということです。

特定の業界の業態名を指定して書面化することができないので(何をもってラブホテルなのかの線引が難しいから)法律文言としてはこのような曖昧な表現になるのです。(法律とはそういうものです)

また自治体によっては、条例でラブホテルの建築規制に関する条例をつくっている場合もあります。また、ラブホテルとは言い切ってはないものの明らかにラブホテル運営をターゲットとした規制を条例によって設けている自治体もあります。

たとえば、ダブルベッドの数を規制したり、受付スタッフが対面で応対することを条件としていたりです。

とにかく、各自治体によって、条例や内規がありますから、必ず保健所に問い合わせたほうがよいと思います。

もし、対象施設が100メートル周囲(現実的には110メートル)内にあれば、都道府県知事から学校の校長・教育委員会などに物件の詳細について情報が送られ、意見が求められます。このことを「照会」と言います。
この「照会」手続きに時間がかかるのです。役人さんの杓子定規な段取りにはいろんな人の承認印が必要となってくるので、とにかく遅いんです。対象施設が複数あれば、余分に時間がかかります。

照会の結果、看板の色や窓に目隠しをしてほしいといった要望がでるかもしれません。そのような場合は素直に従って、近隣の施設と良好な関係を築いておくことが賢明です。

物件が賃貸物件の場合は、賃料開始のタイミング、取得(購入)の場合は、ローン開始のタイミングとうまく図っておかないと余分な出費がかさむことになりますから、事前にどれぐらいの期間を要するのかは確認しておくとよいでしょう。

 

用途変更をしなければならない? - その③ –

これまでみてきた旅館業法という法律だけでもたいがいややこしいのに今度は建築基準法です。ゲストハウスを運営するためには、もちろん運営するための物件が必要なわけですが、その物件は「そうです」もちろん建築物です。建築物ということは、建築基準法に則った建物でなければならないのです。

 建築物の用途とは?

建築基準法では、「建築物の用途」を種別しており、それぞれの用途に応じた規定が設けられています。
例えば、一般的な一軒家は建築基準法上の「住宅」に、マンションは建築基準法上の「共同住宅」に、シェアハウスや寮は「寄宿舎」に該当します。
そして、宿泊施設の一種であるゲストハウスは建築基準法上においては「ホテルまたは旅館」という用途区分に属します。

そして、その用途区分の中でも、特殊な用途を持つ建築物のことで、例えば多数の人が集う建築物(映画館など)や衛生上・防火上特に規制すべき建築物 を「特殊建築物」といい、建築基準法では、こうした建築物については、特に厳しい規制を設けています。特殊建築物に指定されている建物は以下の通りです。

1.劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
2.病院、診療所、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎など
3.学校、体育館、博物館、図書館、ボーリング場、スケート場など
4.百貨店、マーケット、展示場、ダンスホール、キャバレー、料理店、飲食店、遊技場、公衆浴場など
5.倉庫
6.自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ

さらに上記の1.から6.だけでなく、危険物貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場なども特殊建築物に含める場合がある(建築基準法2条2号)。

不特定多数の人が出入りする施設、宿泊したり、就寝することができる施設は、衛生的にも防火的に安心して利用できるよう特に厳しい規定を設けている。

ということです。

 では、建物の用途が「ホテル・旅館」でない場合は?

新しく宿泊施設を建築するのではなく、元々あった別の用途の建物を宿泊施設に転用する場合どうするか?ということです。

この場合は、建築基準法上の『用途変更』という手続きをしなければいけません。

例えば、「共同住宅」を「旅館」に変えたり、「住宅」を「ホテル」に変えることもはいずれも用途変更となります。建築基準法上では、

既存建築物の用途を変更して、200 ㎡を超える建築法第6条第1項第 1 号の特殊建築物とする場合は、用途変更の確認申請及び工事完了の届け出が必要です(法第 87 条第 1 項)。

と明文化されています。つまり例えば、共同住宅だった200㎡を超える既存建築物を転用してゲストハウスにする場合には、用途変更の手続きが必要になるということです。

※2019年以前は100㎡を超える場合に用途変更の手続きが必要でした。

どんな物件でも用途変更できるなら、元々宿泊施設でなかった建物でも簡単に転用できるのでは?っと思ってしまいがちですね。確かに、物理的には可能です。しかし、

・建築士に依頼しなければなりません
・既存不適格建築物の場合、適格な建築物に改修しなければなりません。

ので、コストがかかるのです。

ホテルや旅館を開業する人は、人というか、この場合はたいてい「法人」ですね。つまり、会社としての経営です。会社として数億円という規模の投資をして、設計士に設計してもらい最低でも延床面積が1,000㎡や2,000㎡以上の規模の建築物になるでしょう。

しかし、ゲストハウスとなれば個人で経営する人も多いはずです。個人で投資できる額は限られていますし、そもそも小規模に運営することがゲストハウスの醍醐味でもあるので、大きな投資を望まない方も多いでしょう。

ということは、既存の物件をそのまま転用することを考えますよね。だから、既存の物件の用途と広さ(200㎡以上か否か)を事前に知っておく必要があるのです。

ただ実際は、それだけではなく、建物のことをよ~くわかってないと後悔することになりますよ。

 

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