ゲストハウス開業に立ちはだかる消防法の壁

消防法と旅館業

消防法とは、火災から国民の生命などを守るために制定された法律である。宿泊業に関わらず、個人を含めどんな事業においても火災という絶対に避けなければならない事態に備えて、国民の生命を守るために詳細に細かい規定を設けているのです。

合法的に旅館業を運営するためには、建物の構造や設備がこの消防法にも適合していなければなりません。

旅館業法上の営業種別のうち、旅館・ホテル営業や簡易宿所営業の許可取得を行った施設は、消防法上は消防法施行令第一5項(イ)に掲げる「ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」に分類され、一般的なマンションよりも厳しい消防基準が適用されることになる。

消防法施行令別表第1 

5項(イ) 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの
5項(ロ) 寄宿舎、下宿または共同住宅

 

消防署から適合してもらうには?

『消防』という分野において専門的な知識を有していなければなりません。開業時に改装を依頼している建築士や工務店であれば、いわゆる「防災屋」とよばれる消防の設備の設置や申請に特化した業者さんに依頼してもらえると思います。もしくは、電気屋さんにその防災屋と呼ばれる業者が紐付いている場合もあります。

そして、設計士さんや工務店さんが、その専門業者と工事の段取りをして、5項の(イ)に適した設備、機器類を設置するという流れになります。

専門的なことはここでは書きつくせませんが、ゲストハウスを開業する上で消防が指摘するポイント、設備について取り上げてみます。

 避難経路

火災という非常時には、宿泊者が安全に避難できなければなりません。その避難経路が建物上でどう確保できているかは、とても大事です。各階の収容人数に応じて規定が異なります。

 煙感知器、熱感知器

客室はもちろんトイレや脱衣所など各所に感知器の設置が必要となります。ポイントは、ドミトリーのベッド一つ一つにも感知器が要るのかどうかです。ドミトリーの構造によるところが多分にあり、消防署の見解によりますので、事前に相談しておくほうがよいです。

 自動火災報知設備

各所に設置された煙感知器や熱感知器が発報した場合、どのエリアが発報したのかを明示する設備です。建物により設置基準が設けられています。

 消化器

館内の各所に消化器は必ず設置しなければなりません。従前の建物を賃貸して開業する場合、前オーナーが設置した消化器が置かれているかもしれませんが、消化器には有効期限があります。有効期限の切れた消化器は取替えなければいけません。

 火災通報装置

電話回線を使用して消防機関を呼び出し、蓄積音声情報により通報するとともに、通話を行うことができる装置です。通報後、消防機関からの呼び返しにより、直接担当官と会話が行えます。電話回線を使用しますが、当該回線が使用中であっても強制遮断されるようになっています。消防機関や設備関係者の間では、名称を省略して「火通(かつう)」とも呼ばれている。通報用の録音音声に、施設の住所や名前を登録することができ、消防機関が消火活動をするために必要な情報を迅速に伝えられるようになっています。

 防炎表示と防炎マーク

ゲストハウス館内には、絨毯、壁紙、カーテン、暖簾、シャワーカーテンなど、布類がいろんなところに使われることになります。これらの布類が火災時には延焼の原因となるため、消防署はこれらに防炎表示または防炎マークのついているかどうかは必ずチェックします。

 

消防設備の点検業者

上記に記した機器類(上記以外にもあります)については、定期的に点検をする義務があります。消防法17条3の3 において、

消防用設備等を設置した建物には年2回の設備の点検と所轄の消防署へ1年に1回(特定防火対象物)、または3年に1回(非特定防火対象物)の点検結果の報告が義務付けられています。

継続的に点検をしてもらうことになるので、費用としては決して見逃せないものです。複数の業者に相見積をとって点検業者を選定しましょう。

防火管理者の専任

防火管理者が必要な防火対象物が消防法によって以下の通り、定められています。

① 火災発生時に自力で避難することが著しく困難な者が入所する社会福祉施設等(避難困難施設)がある防火対象物は、防火対象物全体の収容人員が10人以上のもの
② 劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院など不特定多数の人が出入りする用途(特定用途)がある防火対象物を「特定用途の防火対象物」といい、防火対象物全体の収容人員が30人以上のもの(前①を除く。)
③ 共同住宅・学校・工場・倉庫・事務所などの用途(非特定用途)のみがある防火対象物を「非特定用途の防火対象物」といい、防火対象物全体の収容人員が50人以上のもの
④ 新築工事中の建築物で収容人員が50人以上のもののうち、総務省令で定めるもの
⑤ 建造中の旅客船で収容人員が50人以上のもののうち、総務省令で定めるもの

ゲストハウスは、②に該当するので、収容人数が30人以上であれば、甲種防火管理者又は乙種防火管理者が必要となりますので、当該資格を有しているスタッフを専任しなければなりません。

 防火管理者とは

防火管理者は、防火管理業務の推進責任者として、防火管理に関する知識を持ち、強い責任感と実行力を兼ね備えた管理的又は監督的な地位にある方でなければなりません。
防火管理者には、次のような責務があります。

《防火管理者の責務》(消防法施行令第3条の2一部抜粋)
●「防火管理に係る消防計画」の作成・届出を行うこと
消火、通報及び避難の訓練を実施すること
●消防用設備等の点検・整備を行うこと
●火気の使用又は取扱いに関する監督を行うこと
●避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理を行うこと
●収容人員の管理を行うこと
●その他防火管理上必要な業務を行うこと

開業時に消防計画の作成、届出を済ませた後も、運営を継続している以上、消化訓練、通報及び避難の訓練を実施しなければなりませんし、消防署へその報告義務があることを忘れてはいけません。営業を開始すれば、ついつい後手にまわりがちですが、お客様の安全の為に必ず遂行しましょう。

 

防火対象物点検

防火対象物点検が義務となる防火対象物を消防法施行令第4条2の2で以下のとおり定められています。

防火管理者選任義務のある特定用途防火対象物※のうち、次のいずれかに該当するものです。
※特定用途防火対象物とは、劇場、百貨店、飲食店、ホテル、病院等不特定多数の者が出入りする対象物です。

収容人員が30人以上300人未満の防火対象物
1. 特定用途部分地階又は3階以上に存するもの
2. 階段が1つのもの(屋外に設けられた階段等であれば免除)

ホテルや旅館に限らずゲストハウスであっても上記の条件に該当する場合は、防火対象物点検を実施しなければなりません。

 防火対象物点検資格者による点検とは

点検資格者は、次のような項目(ここに示す点検項目は、その一部です)を点検します。

・防火管理者を選任しているか。
・防炎対象物品に防炎性能を有する旨の表示が付されているか。
・防火戸の閉鎖に障害となるものが置かれていないか。
・避難施設に避難の障害となる物が置かれていないか。

 

宿泊施設の防火対象物適合表示制度=『適マーク制度』

まず、対象となる建物ですが、「適マーク制度」の対象となるのは、収容人員が30人以上で、地階を除く階数が3階以上の宿泊施設です。(なお、地域の実情によって、消防機関が対象を別に定めている場合がありますので、詳しくは個別に地域の消防署で確認してください)。

対象となっている宿泊施設は、自らの申請により消防機関から審査してもらいます。そして、その結果、消防法令のほか、重要な建築構造等に関する基準に適合していると認められた建物に対し、「適マーク」が交付される制度です。
宿泊施設はこの「適マーク」をお客様の見えるところに掲示することにより、建物の安全・安心を宿泊者に提供することが可能となります。

「適マーク」には金色と銀色の2種類があります。消防機関が審査した結果、表示基準に適合していると認められた場合は、「適マーク(銀)」が交付されます。3年間継続して表示基準に適合していると認められた場合は、「適マーク(金)」が交付されます。